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街の自転車屋さんでありながらクセのある古本やレコードやZINEなどのリトルプレスを扱っている大阪は淡路駅近くにある唯一無二のお店〈タラウマラ〉より刊行されたこちらのブツ。
例えばコンビニや大型ショッピングモールのような欲望の最大公約数を大量にばら撒いて人間を同質化していく代物に対して白い目を向けることは当たり前として、なおかつ同時にそこからあぶれた人や感情が溜まるはずのZINEやクラブやライブハウスや銭湯みたいな場所において、それらを型にはめようとするものや型にはまろうとすることも断固として拒絶する。例えばこんな文章。
「音楽が爆音で鳴り響く暗闇のなかには聖職者もいれば犯罪者もいる、心優しき英雄もいれば屑のような悪党もいる、互いの胸のうちに共通するものは何もなく、もちろん自発的な歩みよりもない。鳴り響く猥雑な音楽だけが両者を辛うじて暗闇の内側にとどめ、足もとの溝を埋めていく。いまの時代、そういう多元的な現場や空間はもはや存在しないのかもしれない。」
自分だけの感情や体験を容易に手放さないこと。読んでいると「ここは俺の場所だ」「俺の感情だ」「俺は俺だ」、そんな声がストレートに聞こえてきた気がしつつ、フィクションや創作物への語り口からは虚実交々「ほんまもんの嘘」や軽口を愛することを手放さないことも大前提にあって人間臭い。その人間臭さを含めて手放していない、手放さないぞ、という気概がとても良い1冊でした。
収録されている内容と順番も、「はじめに」や「日付のない日記」という固有の経験や感情を経て、「対話篇」という他者との応答へ向かい、最後は「あとがき」で自分ひとりへ還ってくる。
この「あとがき」の、ひとりでありつつ少しだけ開かれた心持ちというか細い穴に少しだけ風が通っているような文章がとても好きでした。あとがきや解説から読んでしまうこともあったり、どこから読んでも良いなぁと思う本もありますが、ぜひこの1冊は頭から。
PATSATSHITなんてSPIKE LEE JOINTみたいなタイトルも、その時の気分と長く考えてきた大事なことをポンっと手渡されたような距離感とノリで、良いタイトル。
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(以下、発行元のタラウマラ通販サイトより)
2冊の日記を刊行した後、タラウマラ店内の工具箱に呪物として封印していたDJ PATSATの魂を2年半ぶりに受肉化させました。新作は日記ではなくエッセイ+対談です。ここ数年の悪しき流れを断ち切るべくして制作した本作、何もかもが圧倒的に自信作です。爆笑してブチギレて泣いて下さい。宜しくお願い致します。
以下info(目次)
はじめに
日付のない日記
○月○日(助け隊をしばき隊、ドラムスティックで)
○月○日(マジック・ナンバー・ナイン)
○月○日(タラウマラ人物列伝)
○月○日(俎板の鯉、いみじくも恋)
○月○日(インビジブル・ワークスとふわふわの残響)
○月○日(世紀の発見)
○月○日(パクリからオマージュへの折り返し)
○月○日 (Songs in the Key of Life)
○月○日(商店街に滴る血とレベルミュージック)
○月○日(スキゾ・パラノイアでお気楽に)
○月○日(ほんまのきもち)
○月○日(その人の歩むところ)
○月○日(淡路でSummer Never Ends)
小野裕介 挿れるより、挿れられる方かな?
小幡玲央 腹触られたらキレてしまいます
蟹の親子 公開ルナルナみたくなってますよね
日常炒飯事 敵は何ですか?
あとがき
DJ PATSAT
東淀川区淡路にある中古自転車屋「タラウマラ」
の店主とは赤の他人の瓜二つ。ある意味、忌み子。著書に『DJ PATSAT の日記』『DJ PATSAT の日記 Volume TWO』
PATSATSHIT
2024 年5 月5 日 第一刷発行
著者
DJ PATSAT
発行所
タラウマラ
〒533-0032
大阪市東淀川区淡路 4-8-3
装丁・本文デザイン
呉松慶吾
印刷・製本
イニュイック